【and people 】andクリエイターを大解剖! case:両角舞
食ライフのプロにインタビュー このシリーズはand.で活躍する食のクリエイターたちの“いま”を探るべく、普段の飾らない素顔や仕事内容をのぞいてみました。プロだからこそ知るテクニックや裏事情は、目からウロコ!知って得する情報も盛りだくさんでご紹介していく連載です。
今回、担当してくれたのはタイ料理研究家の両角舞(もろずみまい)さん。
撮影はフォトグラファー浦野航気が担当しました。
肩書:フードコーディネーター/タイ料理研究家
タイ料理の大らかさに魅せられて、現地で働きながら旅して出会ったのは、旬の野菜や生ハーブをたっぷり使ったおいしくヘルシーな料理の数々。タイ料理研究家として活動する両角さんが語る、知られざるタイ料理の魅力とは? 薬膳の知識もある両角さんが家庭でも作れるタイ料理のポイントも語っていただきました。
タイ料理との意外なご縁とは?
Food Concierge…両角さんとタイの出会いをお聞かせいただけますか?
両角さん…初めてタイに行ったのは21歳のとき、専門学校の卒業旅行でした。でも、そのときのタイの印象はひどかったんです。とにかく体に合わなくて。水が合わなかったのかなんなのか、料理の味も合わなくて、顔や手足がむくんで熱が出たり、野良犬にも追いかけられて本当に嫌な思いしかなかったですね。
Food Concierge…散々な目に遭われられましたね~。でも、なぜタイ料理の道へ進まれたのですか?
両角さん…もうタイには行くまいと思っていたのですが、26歳のときに人生の転機がありました。それまで勤めていた会社を辞めて、引越しをして、お金もなかったのでとりあえず働かなければならない状況になり、飲食店の厨房の経験があったので、ほぼ飛び込みで入ったらタイ料理のお店でした。
Food Concierge…よりによってタイ料理とは! こうなったら、ご縁と思うしかないですね。
両角さん…店長やスタッフがとても感じがよくて、サービスもきちんとしていて好感が持てました。そのお店のタイ料理はとてもおいしくて、体に不調が出ることもありませんでした。タイ料理は、材料をすべてブツ切りにして一つの鍋に入れて沸騰したら終了、みたいな一見、雑な感じに見えるのにものすごくおいしいんですよね。それまではイタリアンやフレンチを作っていたので、その調理法はカルチャーショックでしたね。結局、そのタイ料理店に6年勤めました。
Food Concierge…すっかりタイ料理にハマられたのですね。その間やその後などに、タイに再チャレンジで旅行には行かれたのですか?
両角さん…独自にタイ料理を勉強したいと思って、店で働いて3年目以降は、年1回はタイに通っていました。2014年からは、タイに1年間住むことにもなりました。南部のハジャイという都市で日本人オーナーのレストラン立ち上げサポートの仕事を半年契約でいただき、後の半年間はバンコクを拠点にタイ各地へ食を巡る旅をしました。
Food Concierge…すごい!ずばりタイの魅力は?
両角さん…よくも悪くも、大らかなところでしょうか。ハジャイでタイ人と仕事をしましたが、本当に適当なんですよ(笑)。
雨が降っていたから遅刻したと言うけど、すごい晴れているし(笑)。すぐに嘘だとわかるんですけど、それが通る寛容な国なんですよね。最初の頃は日本と違いすぎてイライラすることもありましたが、現地の方の明るさや優しさに触れる機会が増えるにつれ、心地よくなって、タイとそこに住むタイの人たちのことも好きになりました!
Food Concierge…その大らかさは、タイ料理にも反映されているんですか?
両角さん…そうかもしれません。ある意味、大雑把ですけど素材のよさもあるのか、おいしく出来上がるのが魅力ですね。
Food Concierge…タイ料理といえばパクチー山盛りというイメージですが、やはり現地もそうなのでしょうか?
両角さん…山盛りにするのは日本だけで、タイでは薬味や添え物みたいなものなんですよ。
Food Concierge…そうなんですね。パクチーは味が苦手な人も多いと思いますが・・・実は私も苦手で・・どうしたら克服できるでしょうか?
両角さん…私も最初は苦手でしたが、いつの間にか食べられるようになりました。パクチー料理のイベントをしたとき、嫌いな人がまず食べられたのは天ぷらでした。揚げると山菜のような食感なるんです。でも、タイ料理でも絶対に食べなければならないものではないですので、無理に食べなくてもいいですよ。おいしいものは他にもたくさんありますから。
生ハーブがたっぷり! タイ料理は薬膳
Food Concierge…タイ料理研究家として活動しようと思ったのはいつからですか?
両角さん…タイ料理店にいたときです。同時にフリーランスでフードコーディネーターの仕事もいただいていてジャンルは絞らずに幅広くやってきたのですが、自分の個性を出したいと思いました。初めて作った名刺に「タイ料理研究家」と入れてもらうと、タイ関係のイベントなど、面白いお話をいただくようになりました。
Food Concierge…フードコーディネーターとしての実績は以前からあったのですね。
両角さん…そうなんです。けれど、カフェとの二足の草鞋ですと、お店の勤務中はお仕事のご依頼のお電話をいただいても電話にでれなくて、なかなかフードコーディネーターの仕事はできずにいたんです。
どうしようかなと思っていたら、卒業した料理専門学校から調理講師の仕事をいただけることになったので、カフェフードをメインにした講座の講師としても勤めました。タイに住んだのは、その後です。
Food Concierge…帰国後はタイ料理研究家としてどのような活動をされているのですか?
両角さん…ヨガ教室でタイ料理を教えることになりました。家の近くにキッチン併設のヨガ教室あり、気になって問い合わせてみると、料理教室をやりませんかと話がトントン進みました。生徒さんに何を習いたいか聞くとタイ料理のリクエストが圧倒的に多かったんです。ヨガ教室に通われている方は意識が高いこともあって、ハーブのお話などもまぜてお伝えしてみたら大好評でした。
Food Concierge…タイ料理は生ハーブをよく使うのですか?
両角さん…そうなんです。タイの若い女の子はすごくほっそりしている子が多いのですが、タイ屋台で売られている1食あたりの量が少ないことも理由の1つかなと思うのですが、生ハーブをたっぷり摂っているのも1つの理由ではないかと思っています。タイのハーブは消化を助けるものが多くて、胃腸にやさしく便秘になりにくいみたいです。タイ人は消化器系のがんにかかる率がとても低いらしいのですが、辛いものや脂っこいものを結構食べても、ハーブがそれをきれいに出してくれるからではないかと思います。
Food Concierge…そのハーブの影響で薬膳の勉強もされたそうですが。
両角さん…はい。薬膳は中医学が元になっているので生薬を食べないといけないと思われがちですが、日本の四季の食材でそのときの自分の体調に合ったものを食べようという学問なので面倒なことはないんです。
Food Concierge…薬膳っていうと、薬っぽいものだと思われがちですが、日本の食材でもいいということなんですね?
両角さん…そうです。
Food Concierge…夏だったらどんな(薬膳)料理がお勧めですか?タイ料理風なもので教えてください。
両角さん…トウモロコシのソムタムはいかがですか?ソムタムはベーシックは青パパイヤを使ったサラダのことですが、アレンジとして、トウモロコシ、インゲン、フルーツなどを使ったソムタムもあるんです。
夏は水毒といって、水を飲みすぎてむくんだり、クーラーをガンガンにかけるので汗もかけなくて、さらに冷たいものを食べて冷えなどの症状が出やすくなります。トウモロコシなど夏の野菜は、余分な水分を排出し、体にたまった熱を放出してくれるんです。
Food Concierge…すごい勉強になりますね。
両角さん…ちなみに、トウモロコシで作ったソムタムを、タイではタムカオポートと言います。
タムが「たたく」、カオポートが「トウモロコシ」という意味なので、わかりやすいですよね。タイ料理の名前は調理法と材料の組み合わせのことが多いんですよ。
Food Concierge…面白い! タイ料理を作りながら、タイ語も勉強できちゃいますね。
知られざる料理をレシピ化すべく、タイの食探求は続く
Food Concierge…今後やっていきたいことはありますか?
両角さん…タイ料理の本を出したいと思っています。
Food Concierge…レシピのレパートリーは何種類ぐらいありますか?
両角さん…本1冊の企画書として出せる数は十分にあります。でも、タイ料理の企画書を持っていくと食材が手に入りずらいとかいろいろと言われてしまうんですよね。
Food Concierge…タイの調味料を買っても、レパートリーが思いつかなくて余らせてしまうのではないか。って思われがちですよね~
両角さん…そうなんです。なので、以前、ナンプラー使い切りブックを提案したことがあります。お吸い物やお漬物に入れたり、炒飯や焼きそば、あんかけチャーハンに入れてもおいしいですよ。イワシの魚醤なのでイタリアンのアンチョビ代わりにもなるし、だし醤油的な感じで使ってもらえるんですよ。
Food Concierge…ナンプラー定食ができますね!
両角さん…そうなんですよ。とってもおいしいですよ!
Food Concierge…これからもタイに通われるんですか?
両角さん…年1回は行こうと思います。地方の料理が面白ですね。日本人はもちろん知らないし、バンコクでは食べられない料理がいっぱい出てくるんですよ。
Food Concierge…タイ料理も奥深いですね。食べたくなったのはもちろん、自分でも作ってみたくなりました。私達が知らないタイ料理をどんどん紹介してほしいです!
ご協力いただいた食のクリエイター

料理人として10年間修業を積んだ後、フードコーディネーターに転身。CX系めざましテレビのコーディネーターを5年間務めた他、企業のレシピ開発や撮影スタイリングを多数手がける。各地で行われるタイ料理教室も人気。マイナビウーマン「オトナノきれい塾」にて漢方スタイリストの視点から季節の薬膳や養生についてアドバイザーを務める。
著書に「塩ヨーグルト完全使いこなしレシピ80」(世界文化社)「バズ飯」(ブティック社)がある。
資格 調理師、漢方スタイリスト、漢方養生指導士

大学卒業後、食品会社の宣伝部門に就職。編集プロダクション勤務を経てフリーランスへ。仕事、ビジネス、旅とライフスタイルを中心に取材・執筆。善き食べ手になるべく、農業・生産から、流通、サービスの現場まで幅広い関心を持つ。編集協力として『家庭で作れるサルディーニャ料理』(河出書房)がある。野菜ソムリエ、シードルアンバサダー。
両角さんへのお仕事の依頼はこちらまで(→hue_and@hue-hue.com)
依頼可能内容:タイ料理、レシピ開発、漢方栄養指導、料理教室、調理補助 など